名無しのまんがに出演(で)る話

オープニング
「ぬー」
 本条小萩は悩んでいた。
「やっぱり小萩は完璧すぎるのが問題だと思うんです」
 虚空に向かって小萩は力説する。
「完璧すぎて、逆に普通の人が描けません! そのせいで登場人物がみんな完璧超人ばっかりになっちゃいました! スランプです!」
 どうやら、自作まんがの進行が思わしくないらしい。
「でも謙虚で熱心な小萩は、ちゃんと解決策だって思いついちゃうんです」
 小萩は愛用している大判の手帳とハイテクなスマホを手に立ち上がった。
「人間観察に行きましょう!」

 秋も深まったある金曜日の午後7時、コンビニエンスストア「ネコンビ」のイートインスペースに小萩は陣取った。
「この時間のコンビニ屋さんならいろんな普通の人たちが来るはずです。今日はその人たちを人間観察して、新しいまんがを考えてみましょう!」


マスターより
本条小萩PLです。

ご参加の皆様にはコンビニにて、小萩の「人間観察」の対象になっていただきたく思います。皆様の立ち居振る舞いを元にして、小萩は新しいまんがを描いてみようと目論んでいる様子です。ジャンルは「ちょっぴりふしぎなことも起きちゃう日常ファンタジー」だそうです。
アクションとしては「コンビニで何をするか」=「どんなところを小萩に人間観察される(されたい)か」をお書きください。人間観察の結果を元に小萩は新しいまんがを考えます。そのため「まんが内でどう描写されたいか」を直接書いていただいても無効となります。NG事項はあれば考慮いたしますのでご明記ください。
イートインスペースの小萩には干渉してもしなくても構いません。

リアクションは店内風景と新作まんがの粗筋という二部構成を予定しております。まんが内での皆様は小萩が勝手に考えた名前での登場となりますが、カッコ書きで本名を併記します。


リアクション

■19:41■
 コンビニエンスストア「ネコンビ」の入店音は『猫ふんじゃった』だ。
 来客のたびに流れる軽快なメロディはしかし、この時に限って別の音にさえぎられた。
 ぐぎゅるっるる
 曖浜鴻はその音源が、自分の腹の虫だと気づいて、かっと顔を赤らめた。
(なっ、なんだよ、こんな盛大に!?)
 別にそこまで空腹だったというわけではない。ただ、珍しく早い時間で仕事が終わったし、明日は休日だ。知らない間に気分がゆるんでいたのかもしれない。
(まあ、いいか。こんなおっさんの事なんぞ、誰も見てないだろう)
 そうは思いながらも、鴻はふと、視線を感じてそちらに目をやった。あるいは鍛え上げられた彼の感性がそうさせたのかもしれない。
 ともあれ彼は、自分の方を見ている少女に気づいてしまった。イートインスペースに陣取り、ノートとスマホを手元に並べている。
 彼女は鴻と視線が合ったのに気づいたらしく、さっとうつむいた。勉強中だったのか、手元のノートに何かを書き始める。
(はは、変なトコ見られちまったなぁ)
 まさか自分の醜態がメモされているとは思いもせず、鴻は夕食を選ぼうと食品コーナーに向かった。

(ついに来ましたっ!)
 本条小萩はテンションが上がっていた。人間観察のため19時ころにイートインスペースに来たものの、今夜のコンビニはなぜかガラガラで、観察する相手がいなかったのだ。
 30分以上も粘ったところに、この来客である。
(まずはあの人を観察してみましょう。あの体格の良さは肉体労働系のお仕事ですね。夕ごはんを買いに来たみたいです。きっとおなかがペコペコなんだと思います。さて、何を買うんでしょう?)

■19:45■
 鴻は迷っていた。
 節約中だし、手軽なおにぎりを夕飯にしよう、と思っていたのだが、それが思いのほか高かったのだ。もちろん、大の大人が出せない金額ではないが、厳選された具材を強調するちんまりとしたおにぎりの姿は、どうもコストパフォーマンスが悪いように感じられた。
 すっ、と鴻の隣から細い腕が突き出される。一瞬女性の手かと思ったが、それにしては位置が高い。
 昆布のおにぎりを手に取って行ったのは、赤茶色の髪でピアスを付けた細身の青年だった。
(ありゃ、取られちまったよ)
 残っている中で一番安かった昆布おにぎりの最後の一個を取られてしまった鴻は、夕食のメニューをカップ麺に切り替えた。麺と具とスープがセットになっているし、何より温かい。そっちの方がいい選択だろう、と思う事にする。
 見れば昆布おにぎりの青年は、隣の生鮮コーナーでサラダのパックを買い、それ以外にも細々としたものを手際よく買い物かごに放り込んでいく。
(サラダ、か)
 鴻は日々トレーニングを欠かさず、煙草はまったく、酒もほとんどやらない。だから健康には自信があるつもりだが、トラック運転手という職業ゆえの不規則な生活時間や偏った食事内容には、まだまだ改善の余地がある。
(たまには少しぜいたくしてみるかね。自己投資も半分くらいだ)
 鴻はサラダのパックを一つ、買い物かごに追加した。

■19:43■
 グーは強く手を握りすぎる時がある。チョキは指の腱が引きつる。パーが一番、手と指に負担がかからない。
 無意識にそんな事を考えているせいで、篠崎響也はジャンケンでパーを出す事が多い。
 だから彼はジャンケンに弱かった。ましてや、そのクセを知り尽くしている同居人を相手にしては、勝てるわけがない。
 今日も同居人とのジャンケンに負けた彼は、罰ゲームとしてコンビニに買い出しに来ていた。
 ワイシャツとジーンズにカーディガンを羽織っただけのラフな格好で入店した彼は、頼まれた中で一番の大荷物が控えている雑貨コーナーをちらりと見た。
「最後の方がいいか」
 そうつぶやいて、まずは食品コーナーに向かう。がっしりとした長身の男の脇をすり抜けて、目当ての昆布おにぎりを手に取る。ちょうど最後の一個だった。
 サラダも買ったら冷蔵庫に移動。レモン水、お茶、スポーツドリンク、と重いペットボトルを次々と買い物かごに入れていく。
(楽器より重いものは持った事がない、なんて言ってみたいよな)
 苦笑混じりにそう思う。だがそれは、「音楽家」としては一流かもしれないが、共に生活をする「人間」としては失格だ。
(嫌な事、思い出しちまった……)
 一流の音楽家でありながら、家庭人としては欠損だらけの家族の姿が頭をよぎり、苦笑がただの渋面に変わる。
 不意に甘いものが食べたくなった。響也はスイーツのコーナーの前で少し考えてから、プリンを手に取った。ポップカルチャー誌のランキングでトップに入ったと、友人から聞いた事のある銘柄だ。
(そうだ、『CONCERT』か『管弦楽』の最新号、ないかな……?)
 クラシック音楽専門誌の発売日が来ていた事を思い出し、響也は雑誌コーナーを眺めた。しかしコンビニの品揃えでは、そこまで専門的な雑誌は置いていないらしい。バンドスコア誌が何冊か並んでいるだけでも上等と言うべきだろう。
(しょうがないか)
 そう思いながらも、響也の視線は雑誌コーナーを流れ続け、つい、「成人指定コーナー」の壁を飛び超えてしまった。
 派手な柄シャツを着た眼鏡の男の姿が目に入る。
 男は目をこらし、真剣な表情で、ヌード雑誌の袋綴じのページを下から覗きこんでいる最中だった。
 普段なら柄シャツのデザインの派手さに不協和音の一つも連想しそうなところだが、そこは響也も年頃の男の子。今は色々な気まずさから、あわてて視線を逸らすしかない。
 視線を逸らした先には例のポップカルチャー誌があった。
「!!?」
 幸いな事に表紙のモデルは、自分の知っている少女ではなかった。
 それでも、心臓ががんがんと脈打つのが感じられる。
 響也はそそくさと雑誌コーナーを離れ、雑貨コーナーでティッシュ箱セットを掴み上げた。帰り道は両手がふさがってしまうが、やむを得ない。自分は楽器以外も持つのだから。
 これで買うべきものはすべてそろった。
 響也はレジに向かった。

■19:48■
 鴻はサラダの後、買い物かごにシーフード味のカップ麺と缶コーヒーを追加し、レジで会計を済ませた。
「隣の席、いいかな?」
 狭いイートインスペースで、先ほどからいた勉強中らしい少女に声をかける。
 どうぞ、と少女が答えるのを確認してから、鴻は備え付けのポットからカップ麺に熱湯を入れた。
「3分、と」
 腕時計を確認する。スマートフォンにはタイマー機能というのもあるらしいが、鴻はスマートフォンの操作が苦手だった。
「お嬢ちゃんくらいの歳だと、こういうの全部スマホでやっちゃうんだろうけどねえ」
 待ち時間、手持ちぶさただったので、鴻は少女に話しかけてみた。
「そんな事ないですよ。小萩もハイテクは苦手です」
 少女は気まずそうに苦笑する。
「ふうん。そういう子もいるのか」
「電子レンジは爆発するし、ハイテクスマホは止まったり変な絵を出したりして、とっても困ります!」
 もし嫁さんをもらうなら、機械に強い女性がいいかもな。
 少女の話を聞きながら、鴻はふと、そんな事を考えた。そんなところまで選り好みをできるかどうかは別にして。

■19:50■
 会計を済ませた響也は、イートインスペースにクラスメイトがいるのを見つけた。
「よ、本条」
「あれ、響也さん。お買い物ですか?」
「ああ」
「いっぱい買いましたね」
 そう言われて響也はむくれる。
「しょうがないだろ、二人分なんだから。同居人に頼まれちゃったんだよ。あいつジャンケン強いんだよな」
「ジャンケン?」
「そ、ジャンケンの罰ゲームで、俺が買い出し役」
 ふむー、とうなった後、クラスメイトの少女は言った。
「小萩とジャンケン、してみますか?」
「え、別にいいけど。俺だっていつも負けてるわけじゃないぜ」
「行きますよー。せーの」
 響也の手はパー、少女の手はチョキだった。
「ふふー」
 少女は満足そうに笑う。どうやら彼女も、響也のクセを知っているようだった。
「あれ? おかしいな。も、もう1回!」
 やはり負けっぱなしというのは気分のいいものではない。
 今度は意識してグーを出してみる。少女の手は変わらずにチョキ。勝った。
「1対1ですね。引き分けです」
 けろりとした顔で言う少女を見て、響也はもう一勝負しようかと思ったが、あまり同居人を待たせるわけにもいかない。
「またな」
 と言い置いて、響也はコンビニを出た。

■19:57■
「ぬー?」
 クラスメイトの去った後、カップ麺とサラダを食べ始めた鴻の隣で、小萩は首をかしげた。
 雑誌コーナーに動作の不審な少年がいる。
 一見、漫画雑誌を立ち読みしているのだが、それにしてはしきりに周囲を気にしている。
(どうしましょう、もしかしてあの子、万引きをしようとしているのでしょうか!?)
 小萩の脳内では、テレビで見た「万引きガード」の映像が再生されていた。自分がかっこよく少年を取り押さえる光景まで脳内補完してから少年に視線を戻すと、彼は何事もなかったかのように店を出て行くところだった。手には何も持っておらず、服装も薄着で、何かを隠している様子はない。
(今回は未遂で済んだようですね)
 小萩はほっと胸をなでおろした。

■19:52■
 一方、万引き未遂犯にされてしまった当人――三夜暗は、まったく別の事を考えていた。
 暗は常日頃から身辺の警護を怠らない。男の身にはいつどんな災難が降りかからないとも限らないのだ。
 例えば、道の角を曲がった瞬間に暴漢が襲ってくるかもしれない。例えば、偶然入ったスーパーがテロリストに占拠されるかもしれない。そうなった時、男はいかに動くべきか?
 俺はヘラヘラ笑いながら歩いているその辺の中学生とはワケが違う。今夜このコンビニに来るまでも、いくつもの巧妙なトラップをくぐり抜けてきた。俺でなければ命は無かったかもしれない。
 そんな死線を超えてなお彼がコンビニに来たのは、楽しみにしている少年漫画を立ち読みするためだった。彼の家は大家族なので、毎月のお小遣いは決して多くない。また彼自身としても、家族に過度の負担をかけるのは望むところではなかった。
 店に着いてからも暗の警備体制は揺るがない。気安く店内に入るのは平和ボケした連中のやる事だ。
 まずは店内の様子を覗き見て、人数と配置を頭に叩き込む。そしてファイティングポーズのまま摺り足で、暗は自動ドアのマットを踏んだ。
 入店音の「猫ふんじゃった」が流れる。もちろん、こんな初歩的なブービートラップにかかるほど、暗は間抜けではない。「猫ふんじゃった」が鳴り終わる頃、彼の体は棚を背にする安全な位置へと移動していた。
「ふう、まったく手間を取らせやがる」
 思わず暗は息を漏らす。安易に背中を取られる訳にはいかない。その姿勢のまま、暗はそろそろと雑誌コーナーに向かった。
(これだ、これこれ)
 今週号は目当ての漫画が表紙と巻頭カラーを飾っていた。一瞬、暗の頬が緩む。しかし彼はあわてて表情を引き締めた。
(まずいな、俺とした事が。もしかしたら漫画に夢中になっている間に、誰かが俺を襲ってこないとも限らない)
 今一度、自身に喝を入れ直してから、暗は立ち読みを始めた。
 もちろん、読みながらも周囲には目を配り続け、些細な異変も見逃さないよう精神を研ぎ澄ませる。背後への注意も忘れない。誰かが後ろを通る時は一度雑誌を閉じ、振り向いて奇襲に応じる体勢をそっと組む。
 だが、敵は大胆であり狡猾だ。
 今、暗の目の前の駐車スペースに入って来た車も、そのまま店内に突っ込んで来るつもりかもしれない。暗は仕方なく、雑誌を一度棚に戻し、柱の陰に身を潜めた。車は駐車スペースで停止したのを確認してから暗は雑誌コーナーに戻る。
「くそっ」
 どこのページまで読んでいたのか分からなくなってしまった。そして愕然となる。
 まさか奴ら、ここまで計算して、俺に精神攻撃を仕掛けてきたというのか……? 俺のわずかな休息である漫画の立ち読みまで妨害してくるとは、どこまで卑劣なんだ……!
 はっと気がついて再度店内を確認する。イートインスペースで若い女が薄笑いを浮かべながら、こちらを見ている気がした。
 それだけではない。黒いスーツ姿でサングラスを付けた長身の男までが入口付近でこちらを顔を向けている。さっきまで店内にはいなかったはずの男だ。
 一体いつの間に……。俺を二重体制で監視していたんだな。今まで気付かなかった俺も迂闊だったが、ご苦労な事だ。
 まあ、いいさ。何とか無事に漫画は読み終えた。これ以上お前らのお遊びに付き合っているほど、俺も暇じゃない。
 暗は雑誌を閉じ、元あった位置にきちんと置き直した。それから薄笑いの女と黒服の男の視線を避けるようにして店を出る。どうやら二人とも、尾行まではして来ないらしい。
 いや、それもカモフラージュの可能性はあるな。
 暗は家と反対の方向に向かって歩き出した。
 今日は裏道を3本ほど経由してから家に帰ろう。俺のせいで家族に迷惑はかけられない。

■19:56■
 鉄衛守はその日、コンビニに寄る予定はなかった。
 いつものようにドライブイン寝子島で引きつった営業スマイルを浮かべながら仕事をこなし、いつものように転属を考えながら仕事を終え、いつものように家路についた。
 冷たい風の吹き抜ける路地を黙々と歩いていると、衛守のスマートフォンが妹専用の着信音を鳴らした。開いて見る。学校で流行っている乳酸菌飲料「ニャミール」を買ってきてほしい、という内容だった。
 妹の頼みを衛守は断れない。
 連絡がもう少し早ければドライブインの在庫から持って来る事もできたんだがな、と軽くため息をつき、衛守は大通りに出た。目の前にコンビニがある。
 ここでニャミールは売っているだろうか?
 まあ、なければまた別の店を探せばいいだろう。一軒目で手に入るならそれに越した事はない。
 店内に入った衛守は、すぐ脇の雑誌コーナーから異様な気迫を感じた。
 中学生くらいの少年が漫画雑誌を立ち読みしている。それはいいのだが、しきりに周囲を気にしている。他の客が後ろを通ると、雑誌を閉じ、デタラメな格闘技の構え(のようなポーズ)を取っている。どうやら護身術のつもりらしい。
 その手の仕事のプロフェッショナルである衛守からすれば失笑ものの光景だったが、少年の表情はいたって真剣だった。
 事情はよく分からなかったが、かと言って見知らぬ少年に気軽に声をかけるような積極性など、衛守は持ち合わせていない。
 少年が自分を一瞬にらんでから(なぜにらまれるのかもよく分からなかった)店を出て行くのを見送り、衛守は冷蔵庫に向かった。
 そして茫然となる。
 どれを買えばいいんだ……。
 飲料コーナーには10種類を優に超えるニャミールがあった。味だけでも各種フルーツ味や菓子とコラボしたもの、あるいはコラーゲンやビタミンミネラルなどの栄養を強化したサプリに近い感覚のもの、果てはコンビニ限定の「レインボー味」などという中身の想像がつかないものまで並んでいる。
 闇雲に種類を増やせばいいわけじゃないだろう……。
 妹からのメールを見直したが、味についての指定はなかった。
 面倒だ、全部買うか。
 日々の品出しで鍛えた手さばきを駆使し、衛守は買い物かごに全種類のニャミールを詰め込んだ。入れながら数えてみたら22種類あった。

■20:07■
「ぬー?」
 小萩は目をぱちくりさせた。
 買い物かごいっぱいにニャミールを詰めた、サングラスに黒スーツ姿の男がレジに向かっている。女子中高生の間で話題のドリンクと、裏社会のエージェントのような男の風体は、明らかにミスマッチだった。
(どうしてあの人、あんなにニャミールを買っているんでしょう? ニャミールが大好きなんでしょうか?)
「ありゃ、あの人……」
 カップ麺を食べ終え、食後の缶コーヒーを飲んでいた鴻が、ぼそりと言った。
「知ってる人ですか?」
「ああ、ドライブインの店員さんだよ。たまに使う事があってね。サングラスしてるけど、あのガタイの良さは間違いない。普段はもっと愛想のいい人なんだが……。まあ、今はプライベートだろうからね。はは、気がつかないふりしとこう。仕事以外の場所で客と会うなんて、気まずいもんだ」
 缶コーヒーを飲み終え、鴻は立ち上がった。
「じゃ、俺も気づかれないうちに出るよ」
 じゃあな、と軽く手を振り、鴻はコンビニを出た。カップ麺と缶コーヒーで温まった体には、冷えた夜気も涼しく心地いい。
 明日はのんびり買い物でもするかな。
 鴻はそんな事を考えながらコンビニを後にした。

■20:10■
 衛守は再びピンチに直面していた。
 レジで会計を済ませた彼に、店員がこう言ってきたのだ。
「1500円以上のお買い上げですね。ポストカードを1枚お選びいただけます」
 意味が分からなかった。戸惑う衛守に店員は、にこにこしながらカウンターの下を示して見せた。可愛らしい少女が10人ほど描かれたアニメのポスターが貼られている。「We are アイドル!」というタイトルロゴはとても派手で、しばらくは何と書いてあるのか読めなかったほどだ。その下には確かに「対象商品1500円以上のお買い上げで限定ポストカードをプレゼント!」と書いてある。
「これを、俺が?」
 どうやら自分は、このアイドルアニメのポストカード目当てでニャミールを大量に買いこんだと思われているらしい。頭が痛くなってきた。
「いや、結構だ」
 こんなもの、もらってどうしろと言うんだ……。
 急いでこの大荷物を持って帰ろうとした彼は、店員が明らかな困惑の表情を浮かべているのに気づいた。そしてはっとする。
 そうだ、マニュアルにない行動を取る客というのは厄介なものだ。ドライブインでもそうだ。特に最初のマニュアル通りに動くのが精一杯だった時代、客のイレギュラーな行動にどれほど悩まされてきた事か。
「……これをくれ」
 悪夢を振り切るように、衛守は右端のポストカードを指さした。茶髪でウエーブがかかったロングヘアのお嬢様系キャラだった。
(妹への土産にでもしよう)

■19:37■
 時刻はしばらくさかのぼる。
 ジニー・劉は日が沈んだばかりの時刻にシーサイド九龍を抜けてコンビニに来ていた。
 昼夜逆転の生活を送る彼としては驚異的に早い時間帯である。
 そうしたかった積極的な理由はない。ただ、過去にまつわる嫌な夢にうなされて目覚め、寝直す気になれなかった。気分直しに目覚めの一服をしようとしたらタバコも無い。
 そこで仕方なく、異例の小旅行に出る羽目になった。
 煙草はレジでないと買えないので最後に回し、カップ麺や缶詰に栄養ドリンク、またたびメイトやゼリー飲料、セール中の弁当を買い物かごに適当に投げ込んでいく。
(弁当なんて、本当は賞味期限切れの弁当ただでもらえりゃいいんだけどな……。さすがにじかに掛けあうのは恥ずかしい。昔はよくゴミ箱漁ったもんだけど。あの頃と比べりゃ恵まれてる。手作り弁当もってくるお節介女もいるしな)
 ひと通り買い物を済ませたジニーの目が、成人向け雑誌コーナーで止まった。
 一冊手に取り、ぺらりぺらりとページをめくる。
 女子高生特集か……。ガキには興味ねえんだけど。同じ制服なら、ナースとか婦警とか偉そうな職業のがいい。あとSMも外せねえ。
 そんな事を考えながらページをめくっていて、手が止まった。袋綴じになっていたのだ。下から覗きこんで見るが、あまりよく見えない。
(ハッキングならもっとちょろいんだけどな……。アナログはたちが悪いぜ)
 ジニーは内心で愚痴りながら、雑誌の角度を少しずつ変え始めた。

■19:52■
 皆口説男と浅葱あやめは並んでコンビニに入った。
「ねえねえ、あやめちゃん。何買おうかな?」
「ひ、必要最低限のもので、いいですよ。一晩だけ、ですから……」
「え~? せっかくのお泊りなんだよ? もっと楽しまなくちゃ!」
 おどおどと気後れしたように言うあやめに対して、説男は少し口をとがらせた。
 あやめは今夜、説男の家に泊まる事になっていた。と言うか、話の流れで泊まる事になってしまった。突然出た話なので準備も何もしていない。そこで一泊用の小物類をコンビニへ買いに来たのである。
「弟は今日いないからさ、二人っきりで朝まで盛り上がろうよ!」
 しきりに恐縮するあやめを、説男は返って不思議そうに見る。
「あやめちゃん、もしかして嫌だった?」
「いっ、いえ! そんな……ことは……ないです」
 あやめの声のトーンが一瞬だけ跳ね上がったものの、すぐにまた低く戻る。それでも説男は、返事を確認して満足そうにほほえんだ。
「よっしゃ! じゃあねー、まずお菓子と飲み物とー」
「あの、皆口さん、そういうのは後でいいですから……」
「そう? じゃ、歯ブラシでしょー、洗顔でしょー。シャンプーでしょー。あっ、なんかお気に入りのブランドある?」
「……え、その……、いや、特には……ないですけど……」
「じゃあ、オレのでもいいかな?」
「お、お借りしてしまって、良いんですか……?」
 泊めてもらうだけでも申し訳ないのに、そんなところまで世話になってしまっていいのだろうか。しきりに恐縮するあやめに、説男はにかりと笑って見せた。
「うん! じゃんじゃん使ってよ! 安物だけどね!」
 年齢はあやめの方が上だが、ペースは完全に説男がリードしていた。
「あとはー、パジャマはさすがに置いてないね。あ、じゃあ、弟のでいいか」
 思いもしない事を言われてあやめは戸惑う。
「あっ、いえ、その、それは弟さんに、悪くないでしょうか……」
「んー? いいっていいって!」
 でもサイズ合うかなー? とつぶやきながら、説男はあやめの上背と肩幅をちろちろと見た。妙に恥ずかしく、あやめは身を屈めてしまう。
「うん、だいじょぶそうだね!」
 そんな様子にも頓着せず、説男はぽんと軽くあやめの肩を叩いた。あやめの青白い顔にふっと赤みがさす。
「こんなもんかなー?」
 必需品の後は、宣言通り、説男は買い物かごに大量の菓子と飲み物を詰め込んだ。
「マンガとかもいるかなー?」
「そう、ですね」
 皆口さんと話せれば満足です、とは言い出せず、あやめは雑誌コーナーに向かう説男を追った。
 すると説男が、嬉しそうな大声を出した。
「あれっ、ジニーさんだ!」

■20:12■
 知り合いの声を聞き、ジニーははっと我に返る。
 気がつくと店のかけ時計は8時を10分ほど過ぎていた。ほかの買い物の時間を計算に入れても、30分近く袋綴じと格闘していたらしい。結局、中身は見えなかった。
「な、何だ。説男じゃねえか」
 雑誌を乱暴に棚に戻してから、ジニーは振り返った。
「てめーも買いもんか?」
「うん! ジニーさんも?」
「まあな」
「またカップ麺? 体に悪いよ~っ。ちゃんと食べてる?」
「うっせーよ」
「オレなんか、ほら、サラダ味のポテチとー、ビーフ味のポテチとー」
「同じじゃねえか」
 どうもこいつにはペースを狂わされる。それでいて無視する気にもなれないのだから厄介だ。
「ずいぶんと買ったな」
 自分は数日分の買い出しだが、説男もそうなのだろうか。確か、弟と二人暮らしだというのは聞いたことがあるような気がした。
「今日はねー、お友だちがお泊りなんだ~」
「ふーん」
 そう言われて初めて、ジニーは後ろにいたあやめの存在に気づいた。

■20:14■
 見たことがある気のする顔だ。しかも自分の店で。そう気づいた瞬間、あやめは反射的に頭を下げていた。
「ど、どうもその節は弊店にてお買い上げいただきまして、誠に、ありがとうございます……」
 あやめとて商売人の端くれ。このくらいの決まり文句は言えなければならない。
「んー?」
 相手は首を傾げている。自分のことなどおぼえていないのかもしれない。だが、それでも、だ。
「ああ、眼鏡屋か。気にすんなよ。こっちはダテだ」
 たとえぞんざいな扱いを受けようとも。フレームだけで度入りレンズを使っていない客であろうとも。
「ねえねえ、ジニーさん、今日も堅いソファーで寝るの? うち来る?」
 しかし説男のその言葉だけは看過できなかった。
「皆口さん!」
 思わず強い調子の声が出てしまう。
「どしたの? あやめちゃん」
 説男はきょとんとしている。自分の言った状況を理解しているのか。せっかく二人で一晩過ごそうとしていたのに……。
「バーカ。俺はこれからが仕事だよ」
 あやめの心配は杞憂に終わった。
「夜は俺の時間だ。これからまた一仕事しなきゃなんねーの。てめえと遊んでるヒマはねえんだ」
 そう言い残し、ジニーは会計に向かって行った。
「ありゃー、行っちゃったか」
「ほら、皆口さん、僕たちも並びましょう」
「うん、そだね」
 内心ほっとしながら、あやめは説男の隣に並んだ。

■20:16■
 会計の列で待ちながら、説男は考えていた。そう言えば、徹夜で遊ぶとは限らないんだ。ほどほどのところで寝た方がいいかも。
「あやめちゃん、ベッドで寝たいよね?」
「はい? ええ、それは、まあ」
 そうだよねー、と返して更に考える。
 お客様なんだし、オレはソファで寝ようかな。でも、あやめちゃん、そういうの気にしそうだしな。
 あっ、名案!
「そうだ! あやめちゃん、一緒のベッドで寝よう! オレ隅っこで寝るの好きだから結構広いよ!?」
「は……? いえ、いえいえいえっ、せ、狭くなりますよ……っ。流石にも、申し訳ないです…っ」
 名案だと思ったのに、あやめはなぜかおろおろとしていた。
「平気だってー。あやめちゃんが真ん中でー、オレが隅っこ。ほら、ピッタリ!」
「ピッタリじゃないです!」
 話が盛り上がっているうちに、気がつけば、先に並んでいたジニーは会計が済んだらしく、説男の横を抜けて店を出て行った。ぱたぱたと手を振ってそれを見送る。そして、誰がどこで寝るかの押し問答の決着が付く前に、「お待たせしましたー」と店員がレジから声をかけてきた。
 お菓子に飲み物、歯ブラシにマンガに家族計画。
「かっ、家族計画!?」
 説男は思わず、かっと顔が赤くなってしまった。
「こんなのオレ、知らないよ!?」
 それからあわてて店員に言う。
「すいません! これ間違いです! 返してきます……」
 急いで商品を取り返し、そして立ち止まる。
「コレどこにあったんだろ……? ひええ、あやめちゃん助けて……」
(オレこんなの使わないから分かんないよ……!?)
 助けを求めてあやめを見たが、あやめの方も場所がわからないらしく、困惑している。
「あの、こちらで戻しておきますので、いいですよ」
 店員がそう言ってくれて、説男は全身からどっと力の抜ける思いがした。

■20:21■
「フン、いい年してあんなモンでビビってんじゃねーよ」
 慌てふためく説男の姿を店外から確認して、ジニーは吐き捨てるように言った。
 異物混入事件の犯人はジニーだった。店を出る際、すれ違いざまに説男の買い物かごに放り込んだのだ。特に意味はない。袋綴じの一件の憂さ晴らしのようなものだ。
 ただもしかすると、自分になついていると思っていた相手が自分以外の相手にも気を許していると知ったゆえの、ほのかな嫉妬心もあったかもしれない。
「无聊(ウーリャオ)」(ばかばかしい)
 稚拙な自己分析を振り払う。コンビニの外の喫煙コーナーで、ジニーは買ったばかりのタバコの封を切り、一服した。メンソールの香りが鼻の奥を通り抜ける感触が心地良い。
「さて、帰るかな」
 帰ればまた仕事が待っている。つまらないか、危険か、どちらにしろろくでもない仕事が。それでもジニーはシーサイド九龍に帰る。自分がいる場所はあそこしかない。今は、まだ。

■20:25■
 家族計画をはずしてなんとか無事に会計を終えた説男は、あやめと連れ立って店を出た。
「ゴメンねー、なんか変なコトに巻き込んじゃって」
 いえいえ、とあやめが返してくれる。
「僕の方こそ、お役に立てなくて、すみません……」
「そんなコトないってー。うっかりしてたオレが悪かったんだからさー」
 それから、ふっと思いついた事を言ってみる。
「さっきのコト、オレたちだけの秘密ね?」
 いたずらっぽく笑って見せると、あやめはそっぽを向いた。
「こんな話、人になんて言えませんよ、恥ずかしくて」
 「二人だけの秘密」って、いい響きだと思うんだけどなー。ま、内容があんなんじゃしょうがないか。
「それより、皆口さん。その……早く行きませんか?」
 あやめにせかされ、説男は「うんっ」と勢い良くうなずいた。
 そうだ、今夜はまだまだ、オレたち二人だけの思い出を作れるんだよね!
 そして説男たち二人はコンビニを去った。

■21:30■
「ふっふっふー」
 桜花寮に帰った小萩は、今夜の人間観察の成果を見直して、満足気に笑った。
「なんだか面白い人がいっぱいいましたね。さあ、ここから! 小萩の新しいまんがができちゃいますよ!」

◆新作まんが『コンビニ屋さん』あらすじ◆

 ここは海辺の町にあるコンビニ屋さん。今日もいろんなお客さんが来ます。
 たららった、たー!
 マクマホンさん【曖浜鴻さん】のおなかでトランペットの音が鳴りました。
「うわあ、まいったなあ」
 マクマホンさんは日に焼けた顔を真っ赤にします。マクマホンさんはとってもくいしんぼうさん。おまけにおなかで楽器の音になるという、ちょっとふしぎな体質でした。
 そうそう! この町にはときどき、ちょっぴりふしぎな力を持っている人がいるんです。
 マクマホンさんはコンビニ屋さんの棚からおにぎりを取ろうとしました。
 そのときです。ひゅうっと風が吹いたかと思うと、おにぎりは赤い髪の男の子の手に握られていました。
「ふふふ、もらっちゃったぜ」
 男の子の名前はジェラルドくん【篠崎響也さん】。風のように手さばきの早い身軽な男の子です。
「おいおい、それはおれが狙っていたんだよ?」
 マクマホンさんも食べ物に関してはゆずりません。
「しょうがないなあ、じゃあ決闘だ」
 二人は紳士の決闘としてジャンケンをすることにしました。
「ジャン・ケン・ポイ!」
 決闘の結果はマクマホンさんの勝ちでした。
「ちぇっ」
 ジェラルドくんは悔しそうです。でも決闘の掟は絶対です。ジェラルドくんは代わりにサラダを買いました。ほかにも荷物をいーっぱい。
「ジェラルドくん、そんなに買ってだいじょうぶかい?」
 マクマホンさんが心配してくれます。でもジェラルドくんは平気な顔で言いました。
「こんなのへいっちゃらさ。僕には第三の手があるんだ」
 ジェラルドくんは手さばきが早いだけではなくて、念力で三本目の手があるように物を動かしたりもできるんです。
 ジェラルドくんは第三の手まで使って、荷物を全部持ちました。
 ばたばたばた!
 ジェラルドくんがお店を出ようとしたとき、誰かがジェラルドくんにぶつかるようにしてお店に入って来ました。
「おっとっと。危ないじゃないか」
 ジェラルドくんはすばやく荷物を持ち替えて、第三の手で誰かさんを優しく受け止めました。
「うわあっ、なんだこれ?」
 見ればその子は、ジェラルドくんよりももっと小さな男の子でした。
「どうしたんだい? そんなにあわてて」
 ジェラルドくんが聞くと、男の子は答えます。
「ぼくの名前はブラウンズ【三夜暗さん】。今日はまんがを見に来ただけだよ」
「どうしてそんなに急いでいたんだい?」
「うーん、それはね、ぼくは悪い人に追われているんだよ。だからゆっくりまんがも読めないのさ」
「なんだって!」
「そいつは大変だ!」
 ジェラルドくんと、おにぎりを食べていたマクマホンさんは驚きました。
「それじゃあぼくたちが守ってあげるよ」
「おれたちにまかせておけ!」
「かたじけない」
 そう言ってブラウンズくんは大好きなまんがを読み始めました。
 すると派手なシャツを着た男の人がブラウンズくんに話しかけました。
「おい、坊主。おまえもこのまんがが好きなのかい?」
「なんだよ、ジャマするなよ」
「ジャマなんかしないさ、おれもこのまんがは大好きなんだ」
 男の人はそう言って、指をぱちんと鳴らしました。すると、どうでしょう。ブラウンズくんの持っていたまんががフルカラーに変わりました。
「すごいや、とってもきれいだ!」
 ブラウンズくんは大喜び。派手なシャツの男の人はギルバートさん【ジニー・劉さん】。物の色を自在に操れる、ふしぎな力の持ち主でした。
 お店には次々に人が入って来ます。今度は黒い服を着た大きな男の人が入って来ました。
「ブラウンズさまはどこに行ったんだろう?」
 黒い服の男の人はそう言って首をかしげます。
「あれっ、あの人がブラウンズくんを探しているのかな?」
「でもブラウンズさまなんて、なんだか立派そうな呼び方じゃないか」
 ジェラルドくんとマクマホンさんは顔を見合わせました。
「あっ、ロジャー【鉄衛守さん】だ!」
 まんがを読んでいたブラウンズくんも男の人に気がついたみたい。つい声を出してしまいました。
「あっ、ブラウンズさま!」
 ロジャーさんはまんがを読んでいたブラウンズくんを見つけました。
「さあ、ブラウンズさま。お勉強の時間ですよ」
 マクマホンさんが聞きました。
「どういうことですか?」
 ロジャーさんが答えます。
「わたしはブラウンズさまの家庭教師でロジャーといいます。ブラウンズさまが今日の課題を終わらせないで出かけてしまったので、追いかけてきました」
 ロジャーさんはちょっと怒っているみたい。課題をやらないのはよくないことですね。
「ぼくはまんががよみたいんだ!」
 ブラウンズくんはふくれています。
「じゃあ、課題を終わらせたらニャミールを好きなだけ飲んでもいいですよ」
 ロジャーさんの提案にブラウンズくんは目をきらきらさせました。
「ようし、それなら課題をやってやろう。でも先にニャミールを1本だけ飲みたいな」
 ロジャーさんはため息をついてから、
「1本だけですよ」
と言ってレジでニャミールを買ってくれました。
 その様子を見ていて、お店の中にいたカップルさんがこんな会話をしました。
「いいなあ、ニャミール。ぼくも飲みたいなあ」
「そうだね、ニャミールはおいしいよ。でも、おれはニャミールよりダイアンちゃんの方が好きさ」
 ダイアンさん【浅葱あやめさん】とクラークさん【皆口説男さん】。二人はラブラブカップルさんです。BLなので男の人同士ですが、やっぱりラブラブなんです。
「ふふふ、そんなことばっかり言って」
 ダイアンさんは照れながらもうれしそうです。
「あの子はこれからお勉強をするみたいだけど、おれはダイアンちゃんのことをもっと知りたいよ」
 クラークさんの甘い言葉は止まりません。これはふしぎな力などではなく、愛の力なのです!
 ところが次の瞬間、驚きの展開が!
「あっ、ギルバートさん」
 クラークさんが別の男の人に声をかけてしまったのです。クラークさんは恋多き男性でした。
「なんだ、クラークじゃないか」
 ギルバートさんは読んでいた雑誌を棚に戻して言いました。えっちな雑誌ではありません。
「今日はそいつと一緒なのかい?」
「そうですよ。ぼくは今日、クラークさんのおうちにお泊りするんです」
 ダイアンさんはラブラブさをアピールしました。ギルバートさんはちょっとくやしそう。
「ギルバートさんも泊まりに来る?」
 クラークさんはそう言いました。ギルバートさんはちょっとだけうれしそうな顔をしましたが、
「いいや、おれはこれから仕事があるんだ」
と残念そうに言ってお店を出て行きました。
 大荷物を持ったジェラルドくん、おにぎりを食べ終わったマクマホンさん、ニャミールを飲み終えて勉強に戻ったブラウンズくんとロジャーさん、そしてお店の外でもっとラブラブする予定のダイアンさんとクラークさん。順番にお店を出て行って、閉店の時間になりました。

おわり

■23:58■
 小萩は書き終えたあらすじを読み直してつぶやいた。
「ぬー、普通の人しか出て来ない普通の話というのは意外と難しいですね」
 それでも小萩は上機嫌だった。
「今回の収穫で、芸域が広がったような気がします!」
 今後いつか、小萩のまんがに、今までいなかったタイプのキャラクターが登場するとしたら。そのモデルは今夜コンビニにいた「あなた」かもしれない。


マスターより
 ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
 大変に堅実であったり、一部がエキセントリックであったりと、それぞれ個性のあるアクションをいただきまして、とても楽しかったです。
 なお、小萩のまんがは残念ながら残念な内容です。小萩クオリティです。この点については説明不足だったと思いますので、本気のカッコイイ内容を期待していた方がおられましたら、お詫び申し上げます。

  • 最終更新:2015-06-23 23:11:56

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