歌語連(ウタガタリ・ツラネ)(リアクション4)
歌語連(ウタガタリ・ツラネ)
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今は5月のはずだが、その日は真夏のように暑かった。寝子島ならではの異常気象だ。
いきなり探検部に緊急招集をかけるのは無理でも、たまには一人で島歩きもいいんじゃないか?
龍目 豪はそう考えて、普段よりも軽めのザックを背に、鈴島へと渡った。
ところが。島には先客がいた。
「やっほー」
サーフボードを片手に大きく手を振る、太陽よりまぶしい笑顔の少女――入江 みつびを見て、豪は目を見開いた。
「みつび先輩!?」
「偶然じゃ~ん、こんなところで」
対してみつびは、驚いた様子もない。
「どうしてここに?」
「海が、呼んでる気がしてさ」
みつびは陽光にきらめく波間に目をやった。さあっと風が吹き、濡れたみつびの髪をぶらぶらと揺らす。
「なんか、わかるな、それ」
実際、豪も似たような思いで鈴島に来たのだから。
「でっしょー!」
みつびが嬉しそうにニカッと笑う。つられて豪の表情もゆるんだ。
「豪くん、水着は持って来てる?」
「え? ああ、いちおう」
「じゃあ、泳ごう!」
島歩きの予定はあっさり変更になった。
「うんっ、やっぱり豪くん、いい体してるわー」
「そんなにジロジロ見なくてもいいだろ?」
水着に着替えた豪の体つきをほめるみつびと、その視線が気恥ずかしい豪。もはや男女が逆である。
「前にサーフィン教えてあげるって約束したしね。でも、あたしのボードじゃちょっと体格に合わないかな?」
サーフィンはまったくの初心者なので、豪は「そういうものなのか」と思うしかない。
「ま、いいや。感じだけでもつかんでくれれば」
みつびはざっくりした結論を出して、浅瀬で乗り方の指導を始めた。
なんか、ひさしぶりだな、こういうの。
みつびと当たり前のように会話できる時間を、豪はふと、懐かしく感じた。
みつびが3月に寝子島高校を卒業してからは、当然、それまでよりも二人が会う機会は減っている。豪にとっては大学など、密林以上に未知の世界だ。
また、一緒にどこか行けたらいいな。
「豪くん、次は潜ろうか」
サーフィン教室が終わると、みつびがそう言った。口にはどこから取り出したのか、一切れのかまぼこをくわえている。
「私の素潜り、けっこうすごいよ?」
実はろっこん《寝子島マーメイド》なのは秘密だ。
みつびが高校のサーフィン部の部室から「こっそり借りて来た」というアクアラング一式を使って、豪はみつびと二人、鈴島の海にダイブする。
水はまだ冷たいが、魚達が行き交い、春の訪れを感じる華やぎが海中にも確かにあった。
ここにもまだ、俺の知らない世界がある!
豪は素直に驚いた。
目の前にあるもう一つの未知の世界・みつびのハートを、豪はまだ知らずにいる。
イメージソング 『ピュア島の仲間たち』
→p.4~4
- 最終更新:2018-02-22 22:20:00