合コンへ行こう!(リアクション5)


合コンへ行こう!

p.25~25

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 次の日。

 白草朱乃はいつもどおりだった。
 直生とは友達になったが、これといってお互い態度が変わらないのは、元々二人とも誰にでも親しげに話しかける性質のせいだろう。

 アボガドマグロ丼のレシピを教えて貰ったので、家族に振る舞ってみた。家族はおいしいねと言ってくれてた。マグロさんの時と、反応が違う気がした。まだまだ練習が必要なのかしら?
 次の日両親が仕事を休んで、家族の時間が濃密に過ごせて良かった。
 
 年上の友達が増えた。時々メールしたりしてる。あまり女子トークができなかったので、そういう話もしてみたいなんて思ってる。おしゃれの事も聞いてみたり、そうそう、貴乃子とは時々ネイルサロンで出会ったり。赫乃の薔薇をおすそ分けしてもらたり。あの場で誰が一番気になったのか?実は聞き逃してた。
 私の気になった人……?ふふふ、さあ、誰でしょう……?また次の機会にお話ししますね。

 
 
 あれ、朝だ。チョー頭いたい。
 小野田万里はベッドで目が覚めた。服が昨日のまま、化粧も落としてない、あ、えーーと、あ、あたし昨日合コンしてたんだっけか……??
 う、もう昼過ぎじゃん!?やっべ、バイトあるのに!

 あー、化粧このままでいいんじゃね?さすがにそれはまずいかー。

 二日酔いだわコレ、完全に。おっかしいな、あたしの計画では隣で美少年が介抱してくれてる筈……まんか、マグロ臭かったような……。
 まあいいや、バイト行こ。あー。またクソみたいな客の相手しなきゃなんないのかーめんど……。
 
 美少年が空から降って来ないかなー。




 使用人に送られてから、次の日の朝。規則だたしく折り目正しく、音羽紫鶴は自制を持って普段の紫鶴に戻っていた。周りのものに文句は言わせない。僕が自由でいるために。
 大人たちのくだらない会話や、学校の人間が一喜一憂する小さな問題。それらはやはり退屈極まりないが、彼らにもそれなりの人生があるのだろうかと、思えるようになった。集団で見れば愚かだが、個人として接して見れば、そう悪くも無い、のかも。
 少なくとも彼らは、退屈を退屈と思っていない。

 教室の窓を眺めて、紫鶴はふと、思った。
 
 今度合コンをする時は……。

 しばらく退屈は紛れそうだ。

 



 ねむ……。日暮ねむるは欠伸をひとつ。
 久夜山展望台で昼寝をしていた。

 今回は色々反省点も多かったが、充実した体験であった。色んな人と知り合えたし。あの後雷一を送り届けて、彼のアパートで延々と話を聞かされた。帰った時にはギリギリ日が代わる寸前だった。別のアパートの住人が代わってくれて助かった。
 そいえばどうでもいいけど、皆口くんもあのアパートに住んでたんだ……。
 お兄さんと一緒に帰らないんだ。
 まあ、何か事情があるんだろうなあ。僕も色々あるし。

 万里さんとは何度か話をしてる。バイト先によってみたり。なんか気になるんだよなあ。僕もバイトとか、してみようかな。社会勉強として。

 緋紅朱さんとも学校で話す回数が増えた。実は同じ部活なんだけど、今までは僕の方が話しかけてる回数が多かった気がする。たまにだけど、彼女の方から声をかけてくれたりしてる。
 緋紅朱さん、合コンの時も言ってた。お別れしたとか……。僕はその話題には触れないようにしてる。彼女にまた良い人が見つかればいいな……と願う。
 僕は自分の心配もしろって話だけどね。
 まあ、それもおいおいさ……。一度失敗したぐらいで、諦めちゃ駄目だよね。僕にはもう一度話し合ってみたい人もいるし。恋愛の事じゃなく。
 何度だって。生きている限り。

 

 三夜雷一はメゾンエルデストで目が覚めた。
 
 うにゃ……あれ?……昨日俺、なにしてたっけ……?
 あ、ごうこん……。
 なんかこっぱずかしい事呟いてたよーな……ま、いーかっ!
 なーんか、楽しかったなぁ~また合コンしたいなあ。

 メアド、増えてる……。いつ交換したんだ俺……。

 ん、今、ピンポンなった?だれだよー。う、立ったら頭ズキズキしやがる……。

 「あ、みっき」
 「なんだその顔?嫁さんじゃなくて悪かったな!」
 「うおーーみっきーー!」
 「オイコラ、アニキ、突然抱き付いてくんじゃねえよ気色悪ぃ」
 「お前が死んじまう夢見ちまってようぅーーー!」
 「がーーーうっせぇーーーー死なねえよ俺はっ!アニキが生きてる限りなっ!だからライ兄……!自分が役立たずとか言うんじゃねえ、次ンな事抜かしてみやがれ、ぶっ飛ばすからな!」
 「なんだよーーみっきー嬉しい事言ってくれんじゃーーん!やっぱお前だけだぜ俺の味方はぁあああーーー」
 「ちょいとアンタら、静かにしてくンねえかい?」
 帽子をかぶった初老の男性が通り過ぎざまに注意された。アパートの住人だ。
 「ここじゃなんだから、どっかいこーぜ、アニキ」
 「そだなー、んじゃ、迎い酒だー!」
 「昼から飲むのかよっよっしゃ臨むところだ!」
 「みっきはウーロン茶な」
 「ちっ」
 悪ガキ二人が、昼の街に繰り出して。


 

 ガラス工房『Kaleidoscope』。高鷲想一は客を待ちながら作業していた。昨日店を閉めていたところでそう影響のあるものでもない。それよりも、少々ハメを外しすぎてしまったようだった。
 
 まだお酒が残ってるわね……。久しぶりに学生時代に戻ったみたいだわ。
 ふふ、と物思いに耽っていると、店の扉が開く気配。あらお客さん。

 いつもどおりの笑顔の挨拶。いらっしゃいませ。
 「あら、青山さん」
 そこには、申し訳なさそうに会釈する客がいた。想一に合コンに来てくれといった男。
 「どうもです……昨日はすんません……えらいご迷惑おかけしたみたいで」
 「あらとんでもないです!自分じゃ中々そういう場所に足を運ばないから、とてもいい経験させてもらいましたわ」
 社交辞令ではなく本心からであったが、目の前の男が社交辞令にとってしまうのも理解していた。
 「それより、青山さんはどうだったのかしら?お疲れなんじゃなくて?」
 そういえばほとんど部屋に居なかったような……。
 「たまには、ええんとちゃいます?高鷲さんも、二日酔いで大変やないですか?」
 「あらお恥ずかしい。いやねえ、まるで若い子みたいにはしゃいじゃって」
 「何をおっしゃいます。充分お若いやないですの。ボクのひとつ下ですよねえ」
 「あ、ごめんなさい……そうね。アタシ、どうしても自分が年寄りみたいな感覚で……だめねえ」
 「いいひとは見つかりましたか?」
 「アタシはそんなつもりで来たんじゃないから……まあでも姉が結婚しろってうるさいから、何とかしないととは思っているんですけどね……」
 「ご家族がいらっしゃると、大変ですねえ……結婚できん人も、おるやろに……」
 「またこういった機会があれば、お誘いして欲しいですわ」
 そこには触れずに、別の話題をするのが、想一スタイル。
 「……はは、次はボク抜きで……」
 苦笑いの客は、幾つか商品を買っていって去っていった。

 どうしても、人の事ばかりが気になるが、自分の事も考えないと。

 ん?
 「結婚できん人も、おるやろに……」
 もしかして、アタシ、そっちの人と思われてる?

 だめね。これも自分の事気にしないからかしら。
 昔みたいに自由奔放にってのはいけないけど、一歩引きすぎかしらね……。



 「彼女くらい作って早く結婚してください」
 黒マグロ、こと黒間黒造44歳は、弟にどやされたいた。
 「ははは、分かってるって!俺には寝子島の未来を支えていく使命があってだな……」
 「ふざけた事ばかり言ってないで、兄さんも早く自分の人生を考えてくださいよ。もう40過ぎですよ?合コンに行くとかいうから、少しは期待したのに……」
 こんな旬の過ぎたオジサンに、今更何があろうというのか。
 
 愛すべき寝子島の次代の若者たち。願わくばこの合コンでの出会いが彼ら若者たちの新たな絆にならんことを!
 「まあまあ、アボガドマグロ丼でも食って落ち着こうじゃないか!」
 

 
 飛吹蓮太郎は、皆口説男に電話していた。
 「だから説男君、今度の休みにどっかいかないか?」
 「ん~いいよ~?でもどこ行くの?」
 「映画とか、動物園とか?説男君の行きたいところとかないか?」
 「センパイのいきたいトコ」
 「じゃあ俺は説男君の行きたい所に行きたいな!」
 「それじゃあ決まらないじゃん!」
 「ハッハッハ……!そうだなあ……じゃあゆっくり話し合って決めようじゃないか!という訳で、今からそっちに行ってもいいかな?」
 「んー?うん……なんもないよー」
 「じゃあ行く!」
 そんなカンジである。
 口数が減った代わりにぼんやりする事が多くなった後輩に、蓮太郎は必死にアクションしていた。息子を連れて来たりして遊んだりもした。
 何があったかは、無理に聞きだすつもりもない。いずれ話してくれるだろう。その時まで、じっと待つ。
 
 だからアリア、俺はまだそっちにはいけないみたいだよ。
 
 


 神野マキナが店番してる文具店には、少し違う客層が増えたようだ。やたらにぎわう黄色い声。若い女性客が目立つ。前から中高生の女性客は勿論少なくは無かったのだが、なんだか急に増えた気がする。しかもあの合コン以降。
 「これ、わたしが作ったお菓子なんです、食べてください!」
 まただ。ファンレター付の手作りお菓子のプレゼント。今日で何度目になるか分からないそれを、マキナはいつもどおりの微笑で受け取った。「ありがとう」
 普通なら、胸やけが起こりそうな量に達している筈だが、マキナにとって甘いものは別腹なのだ。どころか、世界に二つと無いオリジナルの味が楽しめるのだから楽しくってしょうがない。
 今は店番をしなければならないので食べられないのがとても残念なのだが!

 「合コンで一番モテたのが、イケメン女子だったとはねー」
 離れた場所で腕を組みつつ、したり顔の貴乃子。最初の方はマキナの事を男性だと思っていたのが、化粧室で女子トークをしようかと繰り出した時に鉢合わせて、ああ、なんだ。と。がっかりしたような、納得したような。
 まああの王子さまっぷりなら仕方ない。危うくあたしも惚れるとこだったもん。惜しいなあ。呟きながら、まあ友達でも悪くないかと。ある意味では、女子を惹きつけてくれる格好の囮かもしれない。しかも彼女、恋愛とか興味なさそうだし。

 楽しかったなあ、とマキナは思う。楽しそうなみんなを見ているのが何より楽しかった。お友達も増えたしね。楽しいお菓子も食べられた。また行ってみようかな、合コン。
 楽しみ方は人それぞれ。楽しんだもの勝ちである。



 星ヶ丘寮、薔薇園。
 緋紅朱赫乃は咲いていた。
 
 以前より少し凛として。可憐さを秘めたまま。
 
 あの時の体験は、少しだけ赫乃を前向きにしてくれた。まだ恋人をつくる気にはなれないけれど、異性の友達はできた。
 日暮ねむるとは時々会話するようになった。彼はとても穏やかて、話していると楽しい。部活では色んな事を教えて貰っている。これと言って共通の趣味もない友達だけど、ただそばにいて居心地がいいというのも、友達の条件としては大切なのではなかろうか。

 女の子の友達も増えた。“女子会”というものにも誘われた。なるべく顔を出している。薔薇園で創った薔薇をフラワーアレンジメントして持っていくと、凄く喜ばれるのがとても嬉しい。
 
 「あれからどうかな?」
 薔薇園に立ち寄った従夢が、遠慮がちに赫乃に話しかける。
 「……楽しい……かな?でも……」
 でも、と俯いて。ひどく申し訳なさそうに、赫乃は続ける。
 「……まだ……恋人、とか、は、無理、かな……」
 「うむ」
 と、ためらいがちに従夢は漏らす。あらぬ方向を向いて、そこに答えがあるかのように、雲を眺める。そのまま、苦々しく、声は赫乃に向けて。
 「きみは対人恐怖症を治す必要がある。恋人はそれからだ」
 「……たいじん……」
 そこまで言われるとは……。図星ではあるが、結構傷付く。
 「ひとりの人間とばかり付き合っていても、依存してしまうだけよ。つまり、つまりだね……友達はたくさんいた方がいい……人間の種類も多岐にわたっている方がいいな。良い人間とばかり付き合っているとどうしても弱くなってしまうからね……つまりだ……」
 「……」
 赫乃がゆっくりと顔をあげる。
 「……つまり……」
 「……、あ、あのっ……!」
 思ったよりも大きな声だった。自分でもびっくりするぐらい。ああ、しかも、相手の会話を止めてしまている事に後から気づいた。
 「……どうぞ」
 虚を突かれ目を丸くする従夢、慌ててそう答えた。
 「……あの、……皆口……くんも……お友達に……なって、ほしい、かな……」
 従夢は既に目を丸くしてしまっていたので、これ以上どう驚いていいか分からない。自分が言おうとしていたことを、臆病で人見知りの少女に先を越されて言われてしまった。
 「僕はもう友達のつもりだけど」
 せめて格好ぐらい、付けさせてほしい。それを聞いた赫乃は、嬉しそうに頬を赤らめて俯いた。
 「……ごめん……」
 「また、来るよ」
 「うん、じゃあ、また……」
 「さよならは言わないでおく」

 誰もいない薔薇園で、一人残された赫乃。ふと、空を見上げた。

 知らなかった。

 空がこんなに青いなんて。

 赤い少女と青い空。

 今日も絶好の合コン日和。
 
 
 

 

あとがき


お待たせしました……!大変遅くなってしまい、申し訳ありません……!

随分と時間が空いてしまいました。

背後のコンディションが猛烈に悪くなって、文章も途中からぐだぐだしております。
最後まで書けたのは、ひとえに皆から楽しいアクションと魅力的なキャラクターをお借りした故にございます!

遅筆になってしまいますが、リテイクなど受け付けております。ちょくちょく返していきたいと思いますので、お気軽にキャラメ等頂けると嬉しい限りです。

お待たせしてしまって本当に申し訳ございません。

そしてありがとうございました……!

p.25~25

  • 最終更新:2015-09-26 15:40:53

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