■■しないと出られない部屋(リアクション6)

■■しないと出られない部屋

p.6~6

ページ6

 出口らしい赤い扉以外何もなかった部屋に、卓球台と対戦相手、審判が現れた。
『今回あなたに挑戦してもらうゲームは卓球です! ルールは通常のシングルスと同じです。試合形式は3セットマッチです。ろっこんの使用が発覚した場合は減点の対象となりますのでご注意を!』
 声が告げた。
 新田 亮は迷う事なくラケットを手にし卓球台に向かった。
 ゲームに勝てば出られるんだろう? やってやるさ。
 亮は中学時代、卓球を本気で練習した時期がある。実力は決して低くはない。
 相手の動きと球の動きを冷静に見ながら、亮はまず相手の技量を測る。動作にミスが多く、さほど上手いわけでもないようだ。
 亮のレシーブを相手が取りこぼし、亮は1セット目を取った。
 なんだ。大した事ないじゃないか。
 拍子抜けしてしまうほど単純な試合だった。
 2セット目に入っても、相手は動きにキレがない。ラケットの正面に当たり損ねたサーブが、充分とは言えない速度で亮の陣地に飛び込んで来た。
 軽くレシーブしようとした亮のラケットの下を、球がすり抜けていく。
 油断したな。ノーミスで終わらせたかったのに。
 そう思いながら亮は低めのサーブを放つ。球の感触が、かすかに重い気がした。
 今のは……?
 違和感を覚えながら球の軌道を追うと、球は亮の狙いよりもはるかに低く飛び、ネットに引っかかって亮の陣地に落ちた。亮はまたしても失点する。
 そうか、ろっこん!
 声の主は「ろっこんの使用が発覚した場合は減点の対象」と言っていた。つまり、審判に発覚さえしなければ問題はない。審判に球の重さを確認してもらう事は可能だが、その瞬間だけろっこんを解除されてしまっては意味がない。
 そっちがその気なら、俺もやらせてもらうぞ。
 相手がサーブの姿勢を取る間に、亮は息を吸い、頭で「発動」「倍加」と念じた。
 強化された動体視力で、亮は相手のサーブの軌跡を追う。通常の放物線とは明らかに違う動きをしているのが読み取れた。亮はさらに軌道計算をし、ラケットを突き出す。重くなった球も、強化された筋力の前では威力を失い、鮮やかに跳ね返された。
 よし、これで……。
 しかし跳ね返した球は、相手の陣地をバウンドする事なく、その上空を通り抜けてしまう。レシーブが強すぎたようだ。
 しまった。卓球は力の入れ具合が難しいのを忘れていた。
 再び相手がサーブを放ってくる。亮は慎重にレシーブの威力を抑えた。高すぎず低すぎず、それでいて相手の重力操作にも対応できるように。複雑なコントロールが要求された。
 亮のろっこんは呼吸を止めている間しか発動しない。亮はそれを逆手に取り、必要な瞬間以外はろっこんを解除する事で制御を保ってきた。
 一度突き放された点差は、じりじりと追い上げたが、第2セットは相手が逃げ切った。
 勝負は第3セットに持ち越される。
 すでに亮は、球の重さの変化に完全に対応していた。今なら捌き切る自信がある。
 ところが第3セットで、亮がレシーブを放とうとした瞬間、手先に違和感が現れた。
 ラケットが重い。
 亮はラケットを充分に振り切れず、球は亮の脇をすり抜けていく。
 くそ。この重さは、進化能力でないと動かし辛い。
 亮はろっこんを使わない間、両手でラケットを支え、持ち手の負担を軽減する事にした。レシーブの時に持ち手をなるべく伸ばさず、体ごと移動する。全体の動きが大振りになり、ロスも多くなるが、呼吸を止め続けたままではいられないのだから仕方がない。
 これ、振るのもきついぞ……!
 力を込めればコントロールが難しいし、かと言って力を入れていなければラケットを落としてしまいそうになる。手先がしびれ、油汗が流れてきた。
 それでも亮の闘志は萎えない。
 このくらいのハンデで負けてたまるか、絶対勝つ!
 そう気合を入れてラケットを握りしめると、ラケットが軽くなった。相手がひるんだのだろうか。
「ぐっ!?」
 思わず声が出た。相手が亮の体そのものを重くしてきたのだ。一歩動く事もままならない。その隙を狙って、相手は嵐のようにサーブを決めてくる。
 この野郎っ!
 亮は呼吸を止め、ろっこんを発動した。それでもまだ充分には動けない。
 いや、落ち着け。相手は複数のものを同時に重くはできないらしい。なら今、奴の動きは……。
 倍加した動体視力で相手の動きを追うと、そこにいたのは最初のままの、無駄の多いラケット捌きだった。球の動きも目では捉えられる。
 これなら、いける!
 亮にレシーブを返す余裕が生まれた。続くサーブでも、相手の動き方はこれまでの試合で分かっている。狙い所は読めていた。
 ろっこんを細切れに使いながら、亮は点差を追い上げ、ついに逆点した。酸欠と戦いながら、最後のサーブを決め、亮は思い切り深呼吸をして赤い扉を出た。

あとがき


 小萩です。ご参加ありがとうございました。
 PCさんにどんなゲームを設置するかで、参加者PLさんの好みがいつも以上に見えた気がします。ふふー。
 それでは、また機会がありましたら!

p.6~6

  • 最終更新:2017-08-15 22:35:27

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